昆虫とクモ類の体節の相同性
およびクモ類の系統的位置をめぐって

東京クモゼミの過去記録から、見つけ出しました。

参照されている論文は、インターネットで公開されていて、それらからとった図で、 体節の付属器官の対照は明らかです。

  

従来の理解におけるクモ類(鋏角類)の頭部体節の対応の相同性。「第一触角」を生ずる体節にあたるものは、クモでは体節自体が欠如しているのだと考えられていた。

左から、甲殻類、昆虫、多足類、鋏角類。

Antenna:触角
Intercalary:第二触角を欠く昆虫・多足類(あわせて欠第二触角類ともいう)の場合の体節名
Mandibles:大顎
Maxillae:下顎
Labium:下唇
Chelicerae:クモの鋏角
Pedipalps:クモの触肢
T1〜:胸部体節
L1〜:歩脚
A1〜:腹部体節

黒い楕円が、口の位置。
灰色の体節が脚のつく体節。

  

  

HOX遺伝子発現のしくみから明らかになった、クモ類(鋏角類)のあらたな体節配列。Aが旧来の考え方、Bがあらたに判明した配列。

これにより、鋏角類は、甲殻類・昆虫類・多足類を 含むグループ(大顎類)の姉妹群であることが示唆され、これらの祖先が鋏角類であったという考え方が支持されることになる。

ただし、総合的な形態の特徴を類縁関係から分析した分類学者の立場は、21世紀に入っても、 なお、節足動物内の類縁関係について合意を見ていない。たとえば、鋏角類の独立性を 強く示唆した立場としては、Giribet, G., Edgecombe, G. D. & Wheeler, W. C., 2001: Arthropod phylogeny based on eight molecular loci and morphology. Nature, Vol. 413, pp. 157-161 などがある。 同論文の系統解析結果はこちらの図 のとおりで、系統関係は以下のようになる。

<==o ARTHROPODA 
   |----- Pycnogonida ウミグモ類
   `--+--o EUCHELICERATA
      |  |-- Arachnida クモ類
      |  `-- Xiphosura カブトガニ類
      `---- Myriapoda 多足類
         `---o PANCRUSTACEA
             |-- Insecta 昆虫類 
             `-- Crustacea 甲殻類
鋏角類の位置付けの異なる別の対立仮説(SCHIZORAMIA説)には、例えば、Hou & Bergstrom, 1997があり、鋏角類・三葉虫と他の絶滅群を含むLAMELLIPEDIAグループが、甲殻類と 姉妹群となる。
<==o ARTHROPODA
   |--o SCHIZORAMIA
   |   |-- CHELICERATA 鋏角類  
   |   `-- CRUSTACEA 甲殻類
   `--o ATELOCERATA/UNIRAMIA
      |-- MYRIAPODA 多足類
      `-- HEXAPODA 昆虫類


おまけの古代生物イラスト:

カンブリア紀の無脊椎動物の大進化において見られた 鋏角類の祖先かもしれないSanctacaria綱の数センチの海中生物:サンクタカリス

ちなみに「バージェス頁岩」化石として有名になった数々の節足動物の類縁関係不明の絶滅異端児とされた ヘンな動物種は、後に多くが既存の分類群のなかに位置づけられることになった。

鋏角類Chelicerata の分類:
(SYNOPSIS OF THE DESCRIBED TAXA OF THE WORLD 2000によると、下図のとおり。

Class: †Euthycarcinoidea
Class: †Sanctacaria(一綱一種サンクタカリス)
Class: Pycnogonida ウミグモ綱
          Order: Pycnogonida
          Order: †Palaeopantopoda
          Order: †Palaeoisopoda
Class: Xiphosura カブトガニ綱
          Order: †Chasmataspidida
          Order: Xiphosurida
          Order: †Leanchoilida(一目一属レアンコイリア)
Class: †Eurypterida ウミサソリ綱
Class: †Merostomoidea
          Order: †Limulavida(Sydneyiaシドネユイアを含む)
          Order: †Emeraldellida(一目一属 エメラルデラ)
          Order: †Naroidea(一目一属ナラオイア)
          Order: †Cheloniellida
Class: †Marrellomorpha
          Order: †Marreliina(一目一属マルレラ)
          Order: †Mimetasterida
          Order: †Acercostraca
          Order: †Cyclina
Class: †Pseudocrustacea
          Order: †Burgessida(一目一属ブルゲッシア)
          Order: †Waptiida(一目二属ワプティア)
Class: Arachnida クモガタ綱

(カタカナ種名)は、モリスによるバージェス頁岩の類縁不明節足動物種が、後に既存の分類群内に位置づけされたものの例。

シルル後紀からデボン初紀、はじめて節足動物が上陸した 時代の鋏角亜門クモガタ綱Trigonotarbid目の数ミリの陸上生物(おそらくトビムシ類などの昆虫を食っていた): パレオカリヌス

従来、クモガタ綱の祖先形としてはウミサソリ(Eurypterida)、現生で最も古いのはサソリ類と考えられてきたが、Dunlopらは、 下図のような類縁関係を提示しており、クモ類は、陸生サソリがウミサソリから分かれる以前に、 すでに独立していたと見ている。

<==o CHELICERATA 
   |-- PYCNOGONIDA [Pantopoda] 
   `--o EUCHELICERATA
      `--+--o †Lemoneites 
         `-+--o XIPHOSURA (horseshoe crabs)
            `-+--o †CHASMATASPIDA 
              `-+-o "Higher Chelicerata"
                |-+- †EURYPTERIDA ( sea scorpions) 
                | `- SCORPIONIDA ( scorpions)
                `-- ARACHNIDA (arachnids)
石炭紀、巨大化した鋏角亜門クモガタ綱の新目に属する 数十センチの陸上生物:メガラクネ